『茶杓探訪』第1回「武野紹鷗作茶杓 筒 片桐石州」五島美術館

 

 『茶杓探訪』の連載をはじめます。記念すべき第1回で鑑賞する品は「武野紹鷗作茶杓 筒 片桐石州」。五島美術館の『茶道具取合せ展』(会期終了)で拝見した品です。(一般客としてガラス越しでの短時間の鑑賞です)

 

 『茶杓探訪』の執筆についての前提は、こちらをお読みください

 

 作者の武野紹鷗は1502年生まれの茶人で、没年は1555年です。筒の書付は片桐石州によるもの。石州は1605年生まれ1673年没ですから、およそ100歳の年の差があります。

 

 茶杓と筒の画像は五島美術館のウェブサイトで閲覧可能ですので、気になる方はそちらをご覧ください。ここには簡単なイラストの鑑賞ノートを一部掲載して、全体と細部の感想を記します。ではさっそく。


「武野紹鷗作茶杓 筒 片桐石州」鑑賞ノート
「武野紹鷗作茶杓 筒 片桐石州」鑑賞ノート

 まず、茶杓を拝見します。

 

 武野紹鷗作とされる茶杓は、東京国立博物館に所蔵される品を昨年の特別展『茶の湯』で拝見しました。そちらの品では茶杓のいちばん下に節のある、元節の姿でしたが、こちらは中ほどに節のある中節。とはいえ、やや下気味に配された下り節の姿です。

 

 寸法は長さ17.6センチ。筒長は20.4センチです。

 

 櫂先(お茶をすくう部分)が大きく幅広いこととも合わせて、全体が薄づくりでありながらも強い存在感を感じる茶杓です。露(先端)から節にいたる樋(溝状の部分)は浅く幅広いもので、節には右上りの斜めの筋が幾つか見られます。

 

 順樋の節裏は削り込まれて蟻腰となっていますが、それほど節の高い竹ではありません。色味は全体に枇杷色を呈し、ところどころにやや色の濃い部分はもともとの竹の掠れか、あるいは手で扱われたことによる跡でしょうか。比較的、落ち着いた景色の茶杓です。

 

 節上にやや陰りのような色濃い部分、節下にも同じ程度の濃さで掠れたような跡があり、それらが控えめな景色になっています。また、節のすぐ左下に点のような色濃い部分があり、それがこの茶杓の中で最も色の濃い箇所となります。

 

 露の部分には少し竹の皮のめくれたような跡があり、若干、明るい色をしています。櫂先の枉げの箇所には、樋の両側の高くなった部分がやや色濃くなっています。扱うなかで研磨されての経年変化かもしれません。

 

 切り止め(いちばん下の部分)はアーモンド型の断面で、二刀で仕上げられているように見受けられます。

 

 茶杓全体の姿をあらためて見直すと、のちの千利休以降のはっきりした中節の茶杓に至るまえの茶杓の面影が感じられます。節の部分で重量のバランスをとることは難しいと思いますが、実際に茶室で扱われる際には節上の長さと櫂先の大きさに、優美さと力強さが同時に感じられるのではと想像します。

 

 一見では地味なようでいて、随所に見所のある、たいへん美しく存在感のある茶杓です。

 

 次に筒を拝見します。

 

 筒の竹は皮がすべて削り取られ、竹の質もややかすれたような粗い材質のような印象を受けます。「石」と書かれたすぐ下の穴は、虫喰いの穴の可能性と、削り込みによる貫通、ふたつの可能性が考えられますが、底の節の部分に虫喰いの穴があることから、縦方向の虫喰いの穴に削り込みが到達した複合的なものであろうかと見えました。

 

 虫の穴は節の付近には側面も含めて幾つか見られ、底面の右下にやや大きな穴があります。節の周りは刀で面取りがなされています。虫喰いがされて手擦れで変色した竹の収納容器は、価値観によっては薄汚くも感じられるものですが、むしろ見所ともなるというのは面白い文化ですね。

 

 蓋は長めに仕上げられており、筒よりも色濃く変化しています。蓋が筒と当たる部分は何箇所か欠損があり、そこは明るい色になっています。

 

 筒の口、正面には細いヒビが入っていて、書付のすぐ上にまで至っています。(茶杓の筒は割れやすいものです)

 

 茶杓に比べると、筒のほうは尋常といいますか、虫の穴などの見所がありつつも作為の少ない、用途に徹した形に見えました。茶杓が主体で筒はあくまで収納容器という印象です。

 

 

 以上が、鑑賞の概観です。実際に手にした際にはどのような心地がするのか、確かめてみたい気持ちもありますし、裏がどのようになっているのかも気になります。茶杓は小さく薄いもので、それが接地するように平らに展示されていると、ガラス越しに斜めに鑑賞するのはとても難しいものだと改めて感じました。

 

 茶道具の展覧会において、茶杓をじっくり鑑賞されている方は多くありません。私にとっては好都合ですが、茶道具において歴史上の人物が自作したとされる立体の美術品は茶杓の他にはそう多くないものと思いますので、より注目されると良いとおもいますし、茶杓の展示方法も画期的なものが生まれると良いなとおもいます。

 

 『茶杓探訪』第1回はこのあたりで終えます。箇条書きに簡単に記そうとしても案外長くなりますね。。。なるべく継続できるように、模索しながら地道につづけますので、またご訪問くださいましたら幸いです。

 

 次回の探訪は小堀遠州作の茶杓を予定しています。