個展「カタチノタネ」ご来場御礼

 

 個展「カタチノタネ」を終えました。お陰様で多くのお客様にご来場いただき、たいへん賑やかな三日間となりました。ご来場くださりました皆様、会場をお貸しくださりました西荻窪のSPACE YAUPON 様、個展にご助力くださいましたすべての皆様に御礼申し上げます。

 

 今回の展示では、写真家の山口明宏さんに会場風景の撮影を依頼しました。さっそくたくさんの写真を送っていただきましたので、いくつかを選んでこのブログに載せながら、三日間を振り返って個展の仕上げをしたいとおもいます。(ここに掲載の写真はすべて山口明宏さん撮影によるものです。Photo by Akihiro Yamaguchi)


個展「カタチノタネ」メインテーブル(撮影:山口明宏)
個展「カタチノタネ」メインテーブル(撮影:山口明宏)

 会場であるSPACE YAUPONの中心に設えられたテーブルを真上から。

 

 4年前 2014年の春、日本橋のギャラリー花筥さんでの個展において展示した、白竹と煤竹とを組んだ花籃をこの展示の芯として置きました。4年間の経年変化により白竹が徐々に色づき、淡い煤竹の褐色に少し近づいています。花筥さんでの個展にお越しいただいた方々に、それからの時間の経過を感じていただければと考えて展示をしました。

 

 その『白錆花籃』の周囲には、ここ数年の間に私の定番、あるいは準定番のようになった日用品や、今年から新たに試みている造形作品の種を配し、過去から現在そして未来の私の仕事を見ていただこうと考えました。

 

 3種類の煤竹菓子切り「ささのは」「月雲」「夕星」はいつしか私の名刺代わりのようになり、その原点である菓子切り「ささのは」は、いくつかのお店で常設展示していただくようになりました。

 

 国内だけでなく、先日は吉祥寺のOUTBOUND 店主 小林和人さんに引き連れられた「ささのは」は台湾(「小器藝廊 xiaoqi+g」にて)でも期間限定で展示をしていただき、その広がりを私自身も楽しんでいます。特別な菓子切りである「月雲」と「夕星」は桐の箱に収め、それぞれの銘を印字した竹パルプの名札を同封しています。そのデザインは、いつも個展のフライヤーをデザインしてくださるブックデザイナーの関 木綿子さんに制作をお願いしました。

 

 そのほかの日用品として、煤竹の箸や、この春から新たに定番化しつつある、煤竹のペーパーナイフなども。

 

 造形作品については、一部は東京23区内で採取した竹を用いて、一般に産地としては捉えられていない東京で活動する作家として、今後の可能性を模索するひとつの形を試みました。また、金箔や建築資材などの異素材との組み合わせも新たな形として試みています。


竹工家 初田徹 個展「カタチノタネ」室内
竹工家 初田徹 個展「カタチノタネ」室内

SPACE YAUPON 周囲の西荻窪の景観もカタチノタネ
SPACE YAUPON 周囲の西荻窪の景観もカタチノタネ

 会場のSPACE YAUPONさんには、昨年の真夏にはじめて訪れました。ふだんはREVEL DESIGNという空間デザインの事務所をこの場所で運営されていますが、ときどき展示やイベントを催されていて、その時はゼリーとガラスのイベントの最中。知人が出展されていたご縁で訪れたその夏の日に、室内で鈍く輝く氷と水面、そしてガラスの向こうに見える緑の燦めきとが、私の心につよく印象され、いつかのための種として植えつけられたのでした。

 

 個展の半月前の三月末に写真家の山口さんと一緒に事前の打ち合わせに訪れた際には、まだまだ茂っていなかった向かいの塀の緑(内心、若干心配だった)が、いざ展示となると一気に芽吹き、またギャラリー前の植え込みには、展示に合わせてYAUPONのオーナー Iさんが植木屋さんを頼んで草花を用意してくださいました。

 

 私の望んでいた通りの景色があらわれて、望みの通りにこうして記録していただけたことは感無量です。


金箔銀箔の装飾を施した竹の花入をリースに添えて
金箔銀箔の装飾を施した竹の花入をリースに添えて

 金箔や銀箔を施した竹の掛け花入は、装飾料紙鑑屋さんにご協力をいただき制作しました。竹の全面に金銀の箔押しをしていただいてから、私がひとつずつ研ぎ出し、拭き漆で仕上げることで金箔・銀箔の光沢を鈍く調整しています。

 

 また、個展の際にだけお見せしている、金箔装飾をした煤竹の菓子切り「夕星」も久しぶりに展示をすることができました。


はじめての写真作品や竹の造形物を壁に
はじめての写真作品や竹の造形物を壁に

 今回、はじめての挑戦として写真作品を三点、展示しました。三方の壁や棚に一点ずつ、風をテーマに時間経過を意識した竹の風景写真で、この一年間で意識的に撮りためた写真からとくに選びました。ここにも、私の過去・現在・未来を抽象的に表現したつもりで、私にしか撮れない竹の写真にこれからも挑戦してゆきたいとおもいます。

 

 ところで、私は自分の仕事を主に三つの軸で捉えています。

 

 日用の道具・茶の道具・用の先にあらわれる形としての造形物、この三つです。おそらく写真は、三番目の「用の先にあらわれる形」に分類するのがもっとも理解されやすいところかと思いますが、私自身はそうと決めてはいません。

 

 とくに今回の個展「カタチノタネ」においては、茶の道具ということを念頭におきながら展示しました。そのことを個展のあいだに口に出しては申し上げませんでしたし、私自身は茶道についてはきわめてわずかな経験しかありませんので、あまり大きな声では申しませんが、私の写真が茶の道具になりうる可能性について考えていますし、あるいは日用の道具ということもあるかもしれません。

 

 今後、展示を重ねることでまた見えてくるものがあるでしょう。とにかくこれは私の仕事として撮りつづけます。


歪な鉄製の連環と、ねじれ練られた竹の輪
歪な鉄製の連環と、ねじれ練られた竹の輪

 前回の個展は2016年の9月、桜上水のメガネコーヒーを会場にした「3時の港」というものでした。そして19ヶ月ぶりの個展「カタチノタネ」の最初のお客様は、そのメガネコーヒー店主のTさんでした。

 

 ありがたいことに、こうして展示の輪がうまく繋がりました。そういうものです。

 

 「3時の港」に寄港して下さったお客様も、大勢が「カタチノタネ」に訪れて下さいましたし、それ以前からのお客様、メールやSNSでお付き合いをしていただいたお客様、そして今回がはじめてのお客様もこれまでになく多く、たくさんの方にお越しいただく展示となりました。どうもありがとうございます。

 

 展示に先立っては、いくつものお店に個展のフライヤーを置いていただきました。また、口コミやSNSで広めていただいたり、まめにこのHPやブログをチェックしていただいたりと、いつも気にしてくださる方々には感謝がしきれません。どうもありがとうございます。


 * * *

 

 個展を催す際には、貴重な時間をつかって来ていただく皆さまに、できるだけおなじように楽しんでいただけるようにと、いつも事前に考えていますが、終われば反省することが多く、至らない点が多いことを思い返して冷や汗がでます。

 

 今回の個展についてはどうだったか。

 

 率直にいって、今回は今まででもっとも私自身がやりたいように展示をしました。ですから、私自身の自己満足の度合いは大きかったのは当たり前ですが、響いた方にはこれまでになく響いた部分があったという手応えを感じました。いっぽうでは置いてきぼりのような気持ちがしたお客様も、中にはきっといらしたと思います。

 

 いつもは少なくとも事前においてはそうならないよう気をつけてきましたけれども、恐れ入りますが今回はそういうことが起こるかもしれないと半ば自覚しながら準備をしました。(申し訳ないけれども、私のやりたいようにやります)と内心考えながら支度をしました。私にとってはぜひそうする必要があったからです。

 

 ここ数年は、いろいろの形で個展や小さな展示を頻繁におこなってきたものが、19ヶ月ものあいだそれが途絶えたのは、意図してそうした面がありつつも、次の個展ではこれまでと少し違う形にしたいという意思が少なからずあったために、必要以上に間が空いてしまったという気持ちもあります。

 

 

 今回の個展では、まだまだ十分な脱皮ができたとも思いませんし、そもそもそれほど急激に何かを変えようと意図しているわけでもないのですが、「カタチノタネ」では、ここ数年の自分の活動のひとつの総括をして、もう一段、二段と階段を上ってゆきたいという意思をもった個展にしました。ですから「今回はなんだか、ちょっとちがうな」と思われた方がいらしたら、ごめんなさい。

 

 それから、これは予期しなかったことですが、今までよりも遠くまで私の活動が届くようになったと、この三日間を通じて感じました。物理的な距離、心理的、分野的、あるいは年齢的な距離や範囲の広がりを感じます。

 

 一言で言えば、ご来場されるお客様が増えています。じつは毎回、心配なのです。果たしてお客様が来てくださるだろうかと。こればかりは当日まで分かりようがありませんので。しかも今回は今まで以上に的を絞ったというか、分かりにくい展示という自覚がありましたので、かなり恐れていました。

 

 ところが、この三日間、私が思っていた以上に多くの方にご来場いただき、しかもじっくり長い時間をかけてご覧いただくことができて、たいへん嬉しく思っております。そのことはたいへん喜ばしいことなのですが、混雑した時間帯にお越しいただいたお客様とは十分にお話ができなかったという反省もあります。その反対に、かなりじっくりお互いの会話が通じた瞬間もありました。

 

 お話だけでなく、お会計やお包みもすべて私が自分でおこなっておりましたので、おそらく私が気づかないうちにご来場されて、そのままお帰りになられるまで私が気づかないということも、きっとあったと思います。それはあったに違いないのです。たいへん申し訳ございません。

 

 これから先、もう少し展示の規模や期間を大きくしてゆきたいと考えています。そうなると、場合によっては、事前の準備だけでなく、展示の期間中にもその運営をどなたかに手伝っていただくことも考えねばならないかもしれません。関わっていただく人を増やすということは、もともとギリギリで運営している自主的な展示の中では、展示のあり方について根本から考え直してゆかねばならないことで、すぐに良い状態を作ることは難しいかもしれません。

 

 そうしたことも含めて、制作のみならず私の活動全般、そして展示の中身とあり様についても、一段ずつ高めて参りたいと思います。

 

 * * *

 

 以前にも記しましたが、今年の個展は連続した全体がひとつの個展と考えています。今回の個展を興味深いと思ってくださった方も、あるいは首を傾げた方も、もし宜しければこの次も見に来てくださいましたら嬉しいです。それから、今回ご覧になっていない方ももちろん次回のご来場をお待ちしております。

 

  この個展のキーワードである「カタチノタネ」

 

 花も咲かず果実もなっていない、ただのタネを並べて、今の段階で世に受け入れられるとは、私自身も考えていません。タネはほとんどのかたにとって今は必要を感じないものだと思います。いま必要とされるのは、身体の延長で扱われる何らかの用途をもった道具です。しかし、一年、二年経ったときには、そうではない身体の内側のどこかに働きかける何かを、きっと皆さんは心から欲するようになります。今はそうでなくとも、遅かれ早かれ、必ずそうなります。そのときのお求めに応じるために、私は淡々とタネを育てます。

 

 最後に。

 

 展示をすることの目的の、もっとも大きなひとつは、人と会うことです。今回出会った方とはまたいつかの機会に、今回出会えなかった方、あるいはじゅうぶんに通じることのできなかった方ともまたいつかの機会に、きっと出会うことができると信じて、これからも展示をします。

 

 このたびは「カタチノタネ」へのご来場、ご助力、まことにありがとうございました。いままで私に関わって下さったすべての方のお陰でできた三日間で、この三日間が次の私の形の種になります。

 

 またいつかお会いしましょう。そのときまで、どうぞお元気で。

 

竹工家 初田 徹