『線の造形、線の空間 - 飯塚琅玕齋と田辺竹雲斎でめぐる竹工芸』へ。@菊池寛実記念 智美術館

 

 菊池寛実記念 智美術館で開催中の展覧会『線の造形、線の空間 - 飯塚琅玕齋と田辺竹雲斎でめぐる竹工芸』を観てきました。

 

 明治の末から大正時代、昭和戦前にかけて日本で栄えた、美術工芸としての竹工芸をめぐる大規模な展覧会です。東京都内の美術館で竹工芸の展覧会が行われるのは、およそ30年ぶりだそう。菊池寛実記念 智美術館へ出かけるのも、私にとっては初めての機会です。

 

 今回の展覧会は、竹工芸の展覧会として画期的といえる点が5点あります。竹工家の私が考えるその5点を中心に、展示と美術館についてざっとご紹介してゆきます。


菊池寛実記念 智美術館
菊池寛実記念 智美術館

菊池寛実記念 智美術館。瀟洒な佇まいの入場口外観
菊池寛実記念 智美術館。瀟洒な佇まいの入場口外観

 菊池寛実記念 智美術館は、その建物自体もたいへん美しいものです。東京タワーを間近にのぞむ虎ノ門の、ホテルオークラや大倉集古館、アメリカ大使館などがひしめくエリアの高台に立地し、美術館の建物に沿う明るい庭園に面した一角には広々としたレストランが併設されています。

 

 地下の展示会場は都心の喧騒とは無縁。洞窟のような静寂な空間に、水の流れのように配された展示台が常設され、今回はそこに竹工芸の名品が並んでいます。

 

 

○ 今回の展覧会『線の造形、線の空間 - 飯塚琅玕齋と田辺竹雲斎でめぐる竹工芸』には、画期的といえる点が5点あります。

 

1. 国内とくに東京の美術館で、最上クラスの名品が、3ヶ月間もの長期にわたって展示されること

 

2. すべての展示作品が今も国内に残っている品であること

 

3. それらの作品は民間の所蔵者の手元にあること

 

4. 作品はガラス越しでなく、触れんばかりの間近で見られること

 

5. 数多く展示されている花籃にはオトシが入っていないこと

 

 

 上記の5点について、具体的に記してゆきます。(どの点も重要ですが、とくに5点目は見せ方として新しいと思います)

 

 

・1について

 

 冒頭に記しましたように、東京都内の美術館で竹工芸の展覧会が催されるのはたいへん珍しい機会です。

 

 美術館以外の場での東京での竹工芸の展覧会としては、14年前の2004年初夏に日本橋三越で『竹の造形|ロイド・コッツェン・コレクション展』が、たいへん高いレベルの収集品として大規模に展示されました。ただし、展覧会のタイトルからも分かるように、日本以外の国(米国)のコレクターの方が収集された作品群の展覧会であり、全国を巡回しましたが都内の日本橋三越での展示はわずか6日間だけ(2002年に竹工芸の道に進んだ私も、わくわくしながら観に行きました)。いまはもうそれらの作品を日本で見ることはできません。

 

 また、昨年はニューヨークのメトロポリンタン美術館において大規模な竹工芸の展覧会が催されましたように、近年では日本よりも海外で竹工芸の注目が高まっています。言い方を変えれば、作品は主に海外で取引されています。そうした海外の動きが後押しになったのか、都内で、しかも第一級の作品が並ぶ展覧会が実現し、竹工芸の母国にふさわしい展示内容になっています。

 

 

・2について

 

 日本以外の地域、とりわけ欧米を中心に人気の高まっている竹工芸ですが、それらは日用品ではなくアートピースとして蒐集の対象となっており、本展でも取り上げられている飯塚琅玕斎の作品では、一点で都内のマンションが買えるほどの価格で取引される品もあります。(いま、再び人気という要因もありますが、琅玕斎の作品は存命中からすでに高価な美術品で、籠ひとつで家一軒と言われていました)

 

 

 とくに琅玕斎の作品は、パッと見では民具のように見えるものもあり(じっさいは真似のできない高い次元で制作されている)、簡単には価値が分かりにくい作品も多くあります。日本においては籠は日用品だという先入観があることもあり、価値を理解されぬまま海を渡ってゆく作品は少なくないのですが、そうしたなかで今回は日本国内に残っている作品のみ、しかも最高レベルの品が集まっている点が画期的です。とくに、これまでも最高の評価を得てたびたび美術館で展示されてきた飯塚琅玕斎の作品と並んで、田辺竹雲斎の作品が同時に多く出品されている点が、見どころかと思います。

 

 東京で活躍した琅玕齋と大阪で活躍した初代竹雲斎、かつて東日本と西日本を代表した作家の共演ということになり、すでに目にした作品にも新しい見方ができる機会となるでしょう。

 

 

・3について

 

 2と関連しますが、作品は国内にあるというだけでなく、すべてが民間に所蔵される作品だそうです。国内に残っていても、美術館に収蔵されている品が竹工芸にも多くあります。それはそれで良いのですが、美術館に収蔵されるということは、基本的には市場においては動くことのない作品ということになります。

 

 かつては、国内においても盛んに取引されていた竹工芸が、再びアートマーケットにおいて注目されるようになり、国内においても求める人々が現れて、いまも動きつづけているいるという点が、生きた伝統工芸としての竹工芸の今後には重要なことで、とくに個人的に希望となります。

 

 

・4について

 

 ガラス越しでない状態で、間近に竹工芸を見られる展覧会をこれまで私は経験したことがありません(個人の蒐集家の方から直接に見せていただく機会はありますが、美術館では機会がありません)。

 

 作品によっては不規則な形状をしていたり、あるいは形はシンメトリーでも、それぞれの面に異なる装飾が施されている場合など、ガラス越しの展示では鑑賞に満足できない場合はままあります。

 

 とくに、竹工芸の場合には、編み目がそのまま構造であり、なだらかに見える表面にもたくさんの凹凸があります。いわば彫刻と言って良いものです。彫刻はガラス越しでなく見たいものです。さまざまな角度からじかに見られる機会は貴重で、見せ方としても良い試みではないでしょうか。

 

 とはいえ、作品の保安という点においては、たいへんリスキーな面があると思います。そうしたリスクを越えて、作品を貸し出され一般に公開してくださった所蔵者の方にはとくに感謝したいとおもいます。ありがとうございます。

 

 

・5について

 

 「オトシ」というのは、竹籠に花をいけるための、水を張る器、筒のことです。このオトシを入れずに花籠を展示するのは、美術館の展覧会としては珍しいことで、また勇気のいることではないかと考えています。

 

 なぜならば、日本では籠は使うためのものであり、工芸も使うためのもの、そうした考え方が長く支配的だったと思います。当然、これらの竹工芸が制作された際にも、使用を前提に制作がされたはずです。

 

 花籠にとってのオトシは、必ず付属され「ねばならない」ものであり、展示の際にも籠の中に置かれ「ねばならない」はずのものでした。冷静に考えると不可解なことですが、オトシを入れずに展示すること自体がタブーです。

 

 それをあえて外して、今回の展覧会のタイトルである「線の造形」「線の空間」を見せようという点が画期的で、勇気ある挑戦と言えます。

 

 オトシを外すことで、はじめて竹籠は用途からはなれて、純粋にその美を堪能することができる、そうしたアート作品としての見せ方に踏み込んだことは、小さいようで大きな一歩ではないかと、個人的に注目している点です。

 

 もちろん、用途がある工芸というのも素晴らしいものではあるのですが、現実問題として、現代の生活において大きくて立派な花籠を床に設えて花を入れるというシーンは、残念ながら限りなく現実味の薄くなっている、用途を備えた作品でも現実の用途自体が失われているのが実情ではないでしょうか。生きた工芸としての道を開く試みに期待しています。

 


美術館の螺旋階段に、竹工芸のインスタレーションが
美術館の螺旋階段に、竹工芸のインスタレーションが

展覧会のビジュアルデザインは菊池敦己さんによるもの
展覧会のビジュアルデザインは菊池敦己さんによるもの

 

 菊池寛実記念 智美術館へは初訪問となりましたが、たいへん落ち着く空間で、すっかり好きになってしまいました。

 

 一階のホールから地下の展示室へ降りるための螺旋階段は、空間も素材も素晴らしいものですが、今回の展示期間中には螺旋階段に沿って当代田辺竹雲斎氏による竹のインスタレーションが設えられています。銀の和紙が隙間なくはられた壁面(書家の篠田桃紅氏のコラージュ作品とともに)と、ガラスの手摺をもった螺旋階段(手摺は横山尚人氏の作品)はもともとのもので、それ自体の輝きや曲線もたいへん美しいですが、鈍い艶の虎竹が不思議なほどマッチしています。(そこからまた見るガラスの手摺の輝きと滑らかな手触りもまた素晴らしく、ついつい手摺をナデナデしながら往復してしまいました)

 

 また、本展覧会のビジュアルデザインは菊池敦己さんによるものだそうで、「いかにも伝統工芸」ではない、古典の重みと洒脱さとが合わさったような、本展覧会にふさわしい素晴らしいものだと感じました。図録もこれまでになく美しい図録が用意されています。

 

 以上、5点を中心に長々と記しました。最後までお読みくださり、ありがとうございます。展覧会の会期は7月16日でまでです。

 

 

 ~ 最後に ~

 

 竹工芸の作家としての、私の今年の予定も記載させて頂きます。

 

・次回の個展は9月14日(金)~16日(日)、東京都内で開催予定です。

・その後、年末までにまた異なる内容の個展を行うべく準備中で、来年も個展を継続します。

 

 

 私もみずから竹工芸の世界に入った初代として、自分のすべき仕事、そして自らが求める仕事についても、いっそう精進いたします。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。