青い日記帳『いちばんやさしい美術鑑賞』は、易しく、そして優しい入門書です

 

 つい先日、八月初旬に刊行されました『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)を発売後すぐに購入し、さきごろ読み終えましたところです。著者は、アートブログ『青い日記帳』主宰のTakさん。15章、254ページの新書です。

 

 読み終えた感想をひとことで記しますと「タイトルにいつわりなし」。文字通りに「いちばんやさしい」美術鑑賞の入門書だと感じました。そして「やさしい」は内容の「易しい」こと、まなざしの「優しい」こと、ふたつのやさしさに溢れている本だとおもいます。

 

 本書の「はじめに」から、青い日記帳 Takさんの言葉をお借りすると、本書は「美術鑑賞超入門書」であり「展覧会鑑賞の一ファンが、ふだん展覧会会場で実践している見方を紹介する、いわゆる素人による素人のための指南書」であり、西洋美術七点、日本美術八点、日本国内の美術館で観られる絵画に的を絞って取り上げられています(立体作品もあり)。

 

 ご自身で「一ファン」「素人」と表現されていますが、実際には現在も毎日更新されるアートブログとその前身のホームページを15年にわたって継続されている、筋金入りのアートブログの主宰者の方ですから、その知識と経験はふつうの素人とはまったく異なります。

 

 そうした方が、易しく、そして優しく語りかける15章。それが本書『いちばんやさしい美術鑑賞』だと思います。


青い日記帳『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)
青い日記帳『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)

 本書で取り上げられている作家と作品、見出しを順に挙げます。

 

1.  聞いたこともない画家の作品を鑑賞する時は

グエルチーノ《ゴリアテの首を持つダヴィデ》(国立西洋美術館)

 

2. フェルメールは何がすごいのか?

フェルメール《聖プラクセディス》(個人蔵、国立西洋美術館に寄託)

 

3. 作品の世界に溺れて観てみよう!

モネ《睡蓮》(DIC川村記念美術館)

 

4. なぜセザンヌは「近代絵画の父」なのか?

セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》(ブリヂストン美術館)

 

5. 使う場面を想像しながら観る

ガレ《蜻蛉文脚付杯》(サントリー美術館)

 

6. これが名画?はい、そうです!

ピカソ《花売り》(ポーラ美術館)

 

7. 美術鑑賞は格闘技だ!

デュシャン《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(東京大学駒場博物館)

 

8. 水墨画を味わうために

雪舟《秋冬山水図》(冬景)(東京国立博物館)

 

9. 教科書に出ている狩野派の味わい方

狩野永徳《檜図屏風》(東京国立博物館)

 

10. デザインを語るなら観ておくべし

尾形光琳《燕子花図屏風》(根津美術館)

 

11. 「なぜその作品を作ったか」で観る

伊藤若冲《動植綵絵》(三の丸尚蔵館)

 

12. 観られない作品ほど観たい

曜変天目(静嘉堂文庫美術館)

 

13. 超絶技法に驚く!

並河靖之《藤花菊唐草文飾壺》(清水三年坂美術館)

 

14. 女性ならではの美の表現とは?

上村松園《新蛍》(山種美術館)

 

15. 同時代のアーティストを応援しよう

池永康晟《糖菓子店の娘・愛美》(個人蔵)

 

以上の15章に加えてふたつのコラムも。

 

 15の見出しを見てみると分かるかと思うのですが、それぞれ作品、作家についての解説でありつつ、鑑賞者の立場に立っての具体的な見方、楽しみ方、あるいはそれらの作品、作家に代表されるアートの各分野の見方、楽しみ方が、読者に近い視点から紹介されています。

 

 美術について語られた書物を前にして不安になるのは、難しい専門用語で、難しい批評・美術論がギッシリなのでは.....というものがあるかと思います。本書では平易な言葉でやさしく、15のタイプの美術についての見方が語られており、この本をガイドにして、そこから他の書物や実物の作品に触れて理解をふかめてゆくための最初の「手がかり」になっています。

 

 また、上記のリストをご覧になって、自分の好みではない、あるいはすでによく知っている、といった印象を持たれた方もいられるかもしれません。本書の2番目のコラム「美術館の年間パスポート」の項から、一文を引用したいと思います。

 

 年間パスポートの利点として著者が挙げた4点目

 

 「最後に、年間を通してその美術館で開催される様々なジャンルの展覧会を隈なく見られる点です。普段はよほど興味関心のある内容のものでないと観に行こうとなりませんが、年パスがあるとそうしたもの以外にも足を運ぶことになります。実はこれが美術鑑賞の上でとても重要なことなのです」

 

 耳が痛いです。私もけっこう食わず嫌いだったり、つい億劫だったりで、ついついジャンルは偏りがち、頻度も少なくなりがちな美術鑑賞。多忙の合間を縫って年間300以上もの展覧会に足を運ばれる方の言葉がするどく突き刺さります。

 

 

 本書『いちばんやさしい美術鑑賞』は、内容の「易しい」、まなざしの「優しい」入門書だと冒頭に記しました。もうひとこと付け加えると、気づけば足が遠のき、敷居の高くなってしまいがちな美術館への道のりを、ぐっと縮めてくれる、その後押しになる本だと思います。

 

 実際、本書を読みはじめてからの半月のあいだに、私自身は三つの展覧会へ足を運びました。決して多くはないと思いますが、本を読むうちに出かけたくなったのは確かです。

 

 初版の刊行されて間もない本書はさっそく重版が決まったとのこと。筑摩書房の特設サイトでは一部の試し読みもできるそうです。芸術の秋を間近にして、本書を手に取られてみるのも、何かのきっかけになるのではないでしょうか。

 

 青い日記帳『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)

 

 

 

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【お知らせ】

 

9月14日(金)から16日(日)の三日間、西荻窪のSPACE YAUPONにて、個展「煤竹と茶杓」を開催いたします。→ 詳細

 

初めて茶杓を中心にしておこなう展示です。ぜひ、ご来場くださいませ。

 

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