三輪舎という小さな出版社から9月に刊行された書物『本を贈る』を読みました。本をつくることに関わるかた、十人による共著というかたちの本です。
この本を手にした直接のきっかけは、著者のひとりである校正者の牟田都子さん。
知人が書いた本だから読もう、というよりは、知人が執筆していることで興味を持ち、実際に書店で手にとってみて、目から、手の皮膚から、ああなんだか良い本だな、読みたいなと感じて求めた本です。

装丁・装画は装丁家の矢萩多聞さんによるもの。分厚い見た目とは反対に、手にとって軽く、それでいて軽々しいわけではなくて、やさしい軽さとでも言ったらよいような、ちょうどよい目方。ページをめくる感触も、サラサラとして気持ちの良い読み心地です。そんな装丁をされた矢萩さんも、この本の著者のひとり。
十人の著者は、掲載順に以下のとおり(敬称略)。
島田潤一郎(編集者)
矢萩多聞(装丁家)
牟田都子(校正者)
藤原隆充(印刷)
笠井瑠美子(製本)
川人寧幸(取次)
橋本亮二(営業)
久禮亮太(書店員)
三田修平(本屋)
若松英輔(批評家)
十人の人が本について話す、というよりは、この十章のなかには、十人の人生が本人の手によって現在進行形で記されている、そんな本だとおもいます。


本の佇まい、それを手にした感触からは、エモーショナルな何かをつよく感じました。しかし、読み進めた中身はどちらかといえば硬派で、物語というよりはルポルタージュ、生身というか止まらない血流というか、もっと直接的な感覚が伝わってくるものでした。
それも、たとえばルポライターさんが、十人に取材してまとめたものとはちがう、十人十色の時間を、それぞれの人が時間を費やして記した、よい意味での生々しさを感じて、私は読みすすめるのに時間がかかりました。
本に登場されるかたがたはおよそ四十歳前後とおぼしき、おそらく私とそれほど年の離れていない人々。なんとなく時代の感覚を共有できるがゆえに、自分の人生と照らし合わせて、リアルに感じるのかもしれませんし、読むのにエネルギーがいるのかもしれません。
長い時間をかけて、私はこの本を読み終えました。しかし、この本はほんとうには読み終えることのない本です。
十人の人々、そして著者ではないけれども、奥付に名前の記されたもっと多くの人々は、実際にこの世にいまも生きていて、それぞれの形で本をつくることに携わり、この世の中に本を贈りつづけています。
その営みが終わることはなく、本に記された文字は更新されなくとも、その意味するところは常に改まりつづけます。読み手である私自身も。
この本は、私の本棚にありつづけ、あるいは時に誰か親しい人の本棚へ旅にでるかもしれません。そうして、私はこれからも折に触れて、この本を読み続け、そのたびに何かを受け取ることでしょう。
『本を贈る』は三輪舎から、2018年9月30日に生まれました。