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煤竹菓子切り「ささのは」「夕星」のこれから

 

 こんにちは。11月になりました。

 

 私の唯一の定番として長らくつくり続けてきました煤竹菓子切り「ささのは」。熟考の末に定番としての制作は止めることに致しました。数ヶ月前にインスタグラムに予告的な文章を記しましたものを、お読みいただいたかたもいらっしゃるかもしれません。

 

 派生する煤竹金彩菓子切り「夕星」はもともと定番というわけではありませんが、こちらも今までとは扱いが変わります。

 

 茶の湯のお稽古に行き始めたことをきっかけに煤竹の菓子切りを削るようになり、「ささのは」という形が定まってから十数年。以来、私のつくる品の中では最も多くのかたとの接点になりました作品(小品ではありますが、あえて作品と記します)です。


煤竹菓子切り「ささのは」竹工芸家 初田 徹 作
煤竹菓子切り「ささのは」初田 徹 作

 個展などの展覧会、あるいは常設の取扱店を通じてお求めいただいたり、ときにはご結婚の引出物やお店の周年記念ほか、さまざまな形での記念品、贈答品としてもお選びいただきました。

 

 2013年からは菓子切り千本を意識的に削るという「行」に取り組み、三年半かけて千本を削ったことで、本格的に茶杓削りに取り組むための技術的・美的な礎ともなりました。

 

 たいへん多くの思い出のある品で、長く削りつづけてきた愛着もございます。しかし、いっぽうで削りつづけること自体が目的化している感覚もあり、作り手として年々変化する中で、定番としてつくりつづける積極的な理由を見出しにくくなってきたのも事実です。いずれは後ろ向きな気持ちになる前にいったん止めようと。

 

 とりわけ、この1~2年ほどは自分の中の変化が大きく、つづけてきたことを止める、手放すことで次の段階へ進むという気持ちに傾いてきました。


煤竹金彩菓子切り「夕星」竹工芸家 初田 徹 作
煤竹金彩菓子切り「夕星」初田 徹 作

 菓子切り以外にも、これまでつづけてきた仕事の一部を手放します。

 

 自分が出来ることをすべてやるというのは、経験によって出来ることがどんどん増えてゆくなかでは必ずしも正しい道ではなく、自分の道を見失わずに進むためには、時には背負う荷を手放し、あるいはいくつかの道を捨て、現在地を確かめながら正しい道を探索する必要があります。出来ることを「あえてやらない」ことも時にはとても大事だと考えています。

 

 話がやや大袈裟になりました。

 

 菓子切りを削ること自体を完全にやめるわけではありません。時に応じて削ることもあるでしょう。

 

 定番としてつくる、ということは均質化の道でもあります。それぞれ固有で異質な性質をもった素材に対して、その個性をある程度まで平らにして、できるだけ同じ仕上がりになるように、個々の素材に応じて個別の対し方をすることで、同じ場所に着地するよう仕事をするということです。

 

 これはこれで、ひとつのやり甲斐ある職人的営みではあります。しかし、十数年取り組んできたことで、じゅぶんにやり尽くしたという感もあります。やはり次なる道に力を注ぐべきでしょう。


煤竹金彩中国茶杓と「夕星」竹工芸家 初田 徹 作
煤竹金彩中国茶杓と「夕星」

 菓子切りについての思いは、書き始めればきりがありません。小さな道具ながらも、自分の技術や価値観の凝縮された作品です。ある意味では名刺がわりにもなってきました。

 

 であるからこそ、今後は定番としてではなく、一点ずつの個別のものとして新たな気持ちで対し、削るときは削る、削らない時は削らない、ほかの作品と同じような位置で取り組みます。

 

 (誤解なきよう記すと、もしまた削るときには恐らくほぼ同じ形です。なぜなら「ささのは」はすでに完成された姿で、私にとってはベストといってよい地点に到達しているためです。大言のようで恐れ入ります。到達してしまったが故に立ち止まる、そういうことです)

 

 常設でお取り扱い頂いていたお店へは、順次最後の納品を致しまして、先日、吉祥寺のOUTBOUNDへ「ささのは」を、目黒区鷹番のMIN GALLERYへ「夕星」を納品しましたことで、定番としての納品は完了致しました。いったん在庫限りとなり、今後は展示等で他の作品と同様に限定的に出品をすることになります。登場機会は少なくなるでしょう。

 

 これまで十数年のあいだ、たいへん多くのかたにお手に取って頂き、また各取扱店さまにも長く広くご紹介いただきましたこと、改めて御礼申し上げます。長らくありがとうございました。

 

 繰り返しますが、削ることをやめるわけではありませんし、お求めいただいた菓子切りが消滅するわけでもありません。私にとっての価値はむしろ以前より高まります。

 

 そして菓子切りづくりを通じて得た技術を、これからべつな形でご覧いただくことができますし、私自身はたいへん積極的な気持ちで、あたらしいスタートをすることができます。

 

 * * *

 

 2023年年内は11月末に京都で展示に参加します。また花入や茶杓など、常設取扱店への納品も今まで以上に充実してゆく予定です。

 

 今後とも、竹工芸家 初田徹の仕事をご覧くださいましたら幸いです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。