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冬の竹林から春夏を経て、真竹の白竹が秋に届く

 

 昨年の冬に竹林から伐り出された真竹(マダケ)が、春夏を経てこの秋に白竹に生まれ変り、私の手元に届きました。

 

 青竹の水分を十分に抜いてから、火熱を用いた油抜きという手当てをします。そして天日の力でさらに青みを抜き、長期間の保管や鑑賞にかなう状態になった竹を「白竹」と呼びます。天日に晒すことから「晒し竹」とも。


見事な真竹の白竹
見事な真竹の白竹

 あかるい竹林に育った青竹は美しいものです。しかし伐りだしてそのままでは徐々に色味がわるくなり、竹の質も変質してしまいます。竹林から離れたのち特別な手当てをしなかった場合には、青竹は時間の経過とともに何らかの形で変質、風化をするものです。

 

 その方法を心得た人物が適切な手当てをすることで、自然の竹が長く美しさを保つことのできる「材」として生まれ変わります。


時間の経過とともに色艶を増してゆくマダケの白竹
時間の経過とともに色艶を増してゆくマダケの白竹

 青竹や白竹という名称は状態をあらわす名前です。たとえば江戸時代の古民家から得られる古材の竹ならば煤竹と呼ばれるように。

 

 真竹(マダケ)というのは植物の名前です。皆様がお寺や庭園で目にする機会の多い立派な太い竹はたいていの場合、孟宗竹(モウソウチク)です。

 

 マダケはモウソウチクに次ぐ大型の竹類で、その材質において日本の竹の中で最も優れた面を多くもつ竹です。


風に揺れるモウソウチクの竹林
風に揺れるモウソウチクの竹林

モウソウチクは節と節の間がみじかい
モウソウチクは節と節の間がみじかい

 大型の種であるモウソウチクは筍の食用として有用です。そして肉厚の身は竹箸やスプーンなどのカトラリーを作るのに適しています。また竹林自体も鑑賞に値する見応えがあります。

 

 その代わりに竹籠の材として考えた場合、モウソウチクの節と節の間隔はみじかく、繊維の細密さや肌の色艶などの材質において、マダケなどの他の竹に及ばない面もあります。

 

 適材適所。竹を細く割いて、繊細な籠を制作する竹工芸においては、マダケはもっとも適した素材のひとつです。竹林で大事に育てられ慎重な手当をかさねて作られたマダケの白竹は、材であると同時にそれ自体が工芸品であり、その生まれるまでの工程を含めてArtと呼んでも過言ではありません。


美しく質のよい白竹とのめぐりあわせ
美しく質のよい白竹とのめぐりあわせ

 私の手元に届いた真竹の白竹たちは、素直な節、美しい肌、優美な直線と曲線、じゅうぶんに長い節間をもった太く立派な竹稈です。

 

 滅多にめぐりあえない、たいへん美しい竹を受け取りました。

 

 願わくばよい作品に生まれ変わって、よきお客様のもとで長く生きつづけられるよう、大事につかわせていただきます。